カツンカツンと耳に響く音が、近づいて来る。 彼女から放たれているのか甘くも濃厚なパヒュームの香りが鼻をくすぐる。 【また、エロい匂いだもんだな……】 男は鼻をスンと吸うと深く目を閉じた。 「横いいかしら?」 その女は男が反応する前にスルリと男の左横に座った。 右横には、先程までカチカチと携帯を打ち続けていた女から背伸びをしたようなセクシー系な パヒュームの匂い。 左横からは、甘く濃厚な香りが男の鼻と頭が混乱させていた。 【香水の匂いで鼻がおかしくなっちまう…しかしなんで、この女はわざわざ俺の横に座りに来 たのだろうか……】 薄目を開けて左横の赤い服の女を見た。 色白で睫が長く、端正な顔立ちをしているのがよくわかる。 【普通に美人でスタイルがよく、不自由しないタイプであるような女なのに……なぜだ?】 「ふふっ」 【また、笑った?】 女はクスッと笑うと、赤い口紅で彩られた形のいい唇が動いた 。 「静かなものですね…」 「え?」 「車両には、私とあなただけしかいませんわ」 男は目を開け周りを確認すると隣にいた若い女や離れた所に座っていた酔っ払いや、サラリー マンの姿はなく、 いつの間にか車両には、この女と男だけになっていた。 【いつの間に、皆電車を降りたのだろうか……】 「夢……みたいと思ってらして?」 「いや…俺はずっと起きていたぞ」 「あら…あなたは先程まで若い女の子の肩すれすれまで、うなだれるようにしながら寝てまし たわ」 「え?」 【夢か?夢を見ていたのか?】 「あなたは最初から僕の横に座っていたんですか?」 「ええ」 「ええと最初、僕の前に座っていて、その後、こちらに来たのでは?」 「いいえ」 【そうですか…すみません】 「ふふっ…嘘よ」 女は色気のある表情で微笑んだ。 「ずっと私を見ていたでしょう?薄目を開けて私の事をずっと」 「ああ…いや、それは…あの、すいません」 「謝らなくていいわ…だって見られるのって気持ちいいもの」 「え?」 「自分が自信ある時の日の男性の視線って気持ち良いものよ…だから今日はワザと…」 「ワザとセクシーな服で?」 「ふふっ…まあね」 女は長い髪をかきあげると男の首に手を回した。 「ちょ…っ」 「キスしましょ?」 女の大胆な言葉にまばたきも出来ない程に男は目を見広げたままだった。 続く |
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