夢の内容を疲れのせいにして、何年かぶりに会う両親の顔を見る頃には、すっかり夢の事など忘れ去っていたのだ。
都会の生活に少し疲れていた俺は、生まれ育った片田舎の空気や景色の中で過ごしている内に、少しずつ、溜まっていたストレスが薄れていくのがわかる。
俺は帰省している間に子供の頃に遊んでいた川や山に足を向けた。景色は子供の頃と全く変わっておらず、見るもの全てが新鮮に感じた。
河原から実家に向かう砂利道を歩いていると、ひなびた神社が見える。何を祀って
いるのかは知らないが、子供の頃よく遊んだ記憶があった。
「明日あの神社で骨董市があるよ」
いつの間に俺の背後にいたのか、振り向けばそこにはおかっぱ頭で着物姿の童女が神社を指差しながら、邪気のない笑顔で俺を見つめた。
「骨董市?あんなところで?」
「うん、骨董市あるよ…でもいつもは無い…特別だって母さまが言ってた、ほりだしものが出るって言ってた」
骨董品は嫌いではなかったので、その童女に明日少しだけ見てみると伝えると、童女はコクンと頷き、来た方向とは逆に向かい走って行った。
「あの童女は骨董市の事を伝えに来たのか?ははっ、主催者の子供だったりしてな!」
俺は童女を目で送るとそのまま実家に帰ることにした。
両親と夕食をむかえている時に、俺は両親に骨董市の話をしてみた。
「なあ、明日河原近くの神社で骨董市があるそうだな」
母は味噌汁を一口飲むと、そんな話は聞いた事が無いと言った。
俺は確かにあの童女に骨董市の話を聞いた…
明日になって神社で骨董市があればよし、無ければあの童女の質の悪い嘘だと言う
ことにして、俺は早々と床についた。
翌日になって俺は朝食もろくに取らず、神社に向かった。
神社に向かう道は人気もあまり無く、鬱蒼とそびえる木々の影が神社を更に『気味の悪い 』ものにした。
小さな鳥居を越え本殿に向かうと、骨董市が開催されてるにしては人気はまばらだ。
「お兄ちゃん!こっち!」
昨日の童女が俺のジャケットを引っ張りながら、本殿から少し離れた場所に俺を連れて行った。
確かにそこには小さいながらも骨董市が開催されていたのだ。
境内に広げられたそこには、アンティークな時計やら瀬戸物が所狭しと並べられていた。
「へえ〜割と色々あるんだな…」
俺は骨董品を手に取りながらあれこれ見比べていた。
「あれ?これ何だ?」
俺が手に取った其れは、まるでアラジンの物語に出てくる魔法のランプに酷似していた。
「あはは、ここから魔神ジーニーが出りゃ最高だな!」
「さあ…否定はしませんわよ、そのランプはいわく付きとも言われますからね」
「怖いものなのか?」
「さあ…わたくしには分かりませんが…このランプは必ずわたくしの元に戻って参りますの…」
この骨董主はランプを手に取ると堅くテープを貼った蓋を撫で、にっこりと微笑む。
まだ若きその女主人は、妖しげな色香を纏い微笑みながら俺の瞳を見つめた。
「封印が施されてますでしょう?この封印を外した者のみぞ知る…と言うことになりますわね」
「胡散臭いな…でもあんた美人だし、このランプ飾りにしても綺麗じゃないか…よし買った!」
俺はそのランプが怖い物とも思えなかった。寧ろその売り主の美貌につられて買ったと言った方が早かったのかもしれない。俺はランプを手に入れると足早に帰路についた。
「魔法のランプなら夢を叶えてもらうぜ!」
俺は実家に着くと部屋に閉じこもり、そのランプを見つめた。
銀製のランプには、美しい女神とそれに仕える獣が彫刻されていた。
蓋の周りには幾つかの宝石が施されている。
「これでたったの五万なら儲けものじゃないか…」
俺は蓋を堅くテープで巻かれているのが気になり、一気に剥がした。
「鬼が出るか、蛇が出るか!ええい!ままよっ!」
……鬼も出なけりゃ蛇も出ない……ははっ!やっぱ骨董主の悪い冗談か!
……………………。
「わらわを鬼やら蛇やらと同じにしてもらっては困るがな…」
「誰だ!」
振り返ったその目先には、ランプに描かれた女神が、尊大なポーズで立っていた。
「う…嘘だろ!」
「嘘では無いようだな…ほれその証拠にわらわは、そなたの前に現れたであろう?
して願いは何ぞ言うてみよ…」
「魔神ジーニーなのか!?」
「ふんっ!下らぬ!三つしか願いを叶えぬ者と一緒にするでないわ!わらわはそなたの思う欲を全て叶えるもの。」
「俺の欲望を全て叶えるのか!」
「リスクは大きいがな…一つの欲望に対し、そなたの寿命から一年分の命を貰う事になるがな。」
「一年分の命と引き換えだと!?悪魔の取引きみたいだな…」
「なんとでも言うがよい、そなたの寿命がいつまでなのかは、わらわの口からは言えぬ、タブーが幾つもあってな…」
女神から伝えられたタブー其の1
・他人の死を願わぬ事(他人の不幸を願うのもタブー)
タブー其の2
・時を遡る事を願わぬ事
タブー其の3
・女神との性交渉を望まぬ事
但し3つ目の願い事は残りの命と引き換えならば可という事だった。
「ずいぶんタブーがあるもんだな…まあ俺は人を呪ったりはしないさ…ところで女神の名は何と言うのだ?名前を呼びたくても名前を知らないからな」
「わらわには名は無い、持ち主が名を決めるのでな、確か前の持ち主は、わらわの事をフレイアと呼んでおったな」
「北欧神話の美と愛の神ながら、性奔放な女神か……ははっなるほど、じゃあ俺は…魔神ジーニーにちなんで、ジーンと呼ばして貰うよ」
「魔神ジーニーと同じにするなと言っておるに……仕方ない持ち主の決定には逆らえん…好きに呼べ」
俺は不思議なランプを手に入れた。
多少のリスクはあるにせよ、俺はまだ25才だ。多少の欲望を叶えたとて、まだまだ生きられる。存分に夢を叶えさせて貰うぜ。
「わらわを呼ぶにはランプを三度擦り、わらわの名を呼べ……」
ジーンはそう言うとランプの中に消えて行った。
俺はランプを見つめ世界の覇者になった気分がした。
続く
俺はランプを手に入れた。 そう……こいつは俺の思うが儘に俺の希望を叶えてゆく…… 所謂、絶世の美女と巨万の富、それらを手に入れることは簡単だった。 だが俺の欲望はそんなもんではとどまらない。 俺はいつの間にか、「Endless Anbition」を求めだしていた。 例え、俺の選択が失敗していたとしても、こいつにリセットをして貰えばいいのだからな。 「やれやれ……人の欲とは、そこはかとないものじゃのう…」 この女を抱くと言うことは死を意味する。 「この女だ…名前は須王静香、俺の勤める会社の最大の取引先の須王グループの会長の一人娘だ…」 須王の総裁は、手広く会社を経営する。 「そなたは、これまで、わらわに八つの願いをしてきた…これで最後にするとよい…」 俺はジーンの言葉を聞き流し、来月、帝都ホテルで取り行われる須王グループのパーティーの日取りを、カレンダーに記しを付けた。 「最高の出会いにしてくれよ…ジーン」 |
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