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Club 山咲 北新地のお店です。

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〒530-0002 大阪市北区曽根崎新地1-3-30 北新地幸田ビル3F

vol013  014  015   欲 望HEADLINE

欲望 其5

運命の輪は、その理により廻るものだ。遡る事も出来なければ、その理には抗えぬ……だから運命なのだ……

その日の俺は、朝から忙しく走り回っていた。
パーティー会場に着くやいなや、下っ端の俺は、ホテルの従業員ばりに動き回っていた。
「これが、今日最大の運命を決める男の仕事か?」

心のなかで愚痴をこぼしながら、会社役員の荷物をクロークまで運び、相手の胸に名札代わりのリボンを付けてやる。

ジーンは、その様を小馬鹿にしたように見つめ、会場に訪れる客人の顔をじっと見ていた。
「わらわが、ざっと見た中で犯罪者は3割といったところだな…」

「ジーン…喋るな…お前の問いに答える程、暇は無い……それにお前と話していると、端からは俺が独り言を言ってるように見えるのだからな…」
「ならば、言葉に出さず相づちだけ打てば良いであろう………しかし…悪人顔ばかりだのう…ギラギラしよって欲望の塊ではないか…そそられるのう……」

確かに、パーティー会場に訪れる客人は、皆紳士的ではあるが、その瞳の奥がギラギラとしているのが、俺にもわかる。
「欲望の塊か………はははっ…ジーンも上手い事言うぜ」

「き、君………に、荷物を預かってくれないか……」

小柄で少し神経質そうな男が、セカンドバックを差し出し、名札を早く付けろとばかりに、カウンターに並べられてある自分の名札を指差した。
「はい…お荷物承ります……お名前は……」
「お、御崎だ……」
「御崎様ですね……では…こちらをどうぞ…」
俺が、その男に名札を付けようとすると、その男は、自分でつけるので構わないと言い、俺の手から乱暴に名札を奪った。
だがこの男、さっきから挙動不審な行動ばかりを取っている。名簿に名前を記入している時も、誰かが彼の背後を通る度に、辺りを気にするような素振りを見せていた。何よりも、名札を付けているその手が震えている。

俺は、御崎と言う名の男の行動が、気にはなっていたが、次々と訪れる客人の接客に追われ、人の流れが落ち着いた頃には、すっかりその男の事を忘れていた。

ジーンは、相変わらずフラフラとパーティー会場を物珍しげに見て回り、婦人達が身につけている宝石に目を輝かせている。
他人の目には見えないとは言え、のんきなものだ……
俺は、最後の名札を客人の胸に付け終わると、身なりを整える為に洗面所に向かった。

「はあ………以外と疲れるもんだな……これからって時に…」
鏡に映る男の顔は、誰が見てもなんの取り柄の無い男に見えるのだろう。
だが、この男の瞳の奥には、欲望に取り憑かれた魔物が棲んでいる。
男は冷たい水で顔を洗い、気合いを入れるかのように、自分の頬を音を立てて叩いた。
「さあ……俺の人生の幕明けだ………」

男は、胸に忍ばせた本の厚みを確かめると、小さく声を漏らし笑った。


続く

欲望 其6

【運命の輪】
輪は、ローマ時代以前からチャンスや幸運のシンボルであった…

タロットカードによる運命の輪「The Wheel of Fortune」では、女神によってその輪は永遠に止まることなく回されている。その意味は、正位置であればチャンスと幸運の訪れを司るが、逆位置であればアクシデントと悪化、そして欲張りを表すカードである。
運命の輪はその理によって廻るもの…
タロットカードには、輪の頂点に王冠と剣を持った男性が、女神により幸運を掴み取ってはいるが、歯車は止まることなく回されるのだ…いつしかその男性も輪の理には抗がえなくなる……
この男もいつかは輪の頂点から降ろされ、やがてその成功は次の者へと移りゆくのだ……
まるで、このカードと同じ運命を辿る男が、ここにもいた。
運命の輪を支配するのがジーンであれば、今まさに頂点の冠に手を伸ばそうとしているのが、この男…藤森 零だ。

彼は少し苛ついた表情で、パーティー会場の舞台を見つめていた。

『おかしい……パーティーは佳境を迎えているはずだ。須王の会長とも挨拶を済ませている……なのに何故だ、アクションが起こらない、いや……このまま何も起こらずパーティーは終焉を迎えるのか?』

彼は確かに焦っていた、その理由はもう一つある。
先程まで、ふらふらとパーティー会場を物珍しく徘徊していたはずのジーンの姿が無いのだ。


『ジーン!!ふざけてないで出てこい!!』
彼は心の中で何度も女神の名を呼んだ。だがジーンは現れる様子も無いまま時は過ぎ、パーティーは終わりの時を告げる。
彼は拳を握りしめ、希望を裏切られた喪失感に、小刻みにブルブルと震えていた。
パーティーの司会者が何かを告げているものの、心中穏やかでは無い彼の耳には聞こえる訳がなく、周りで時折聞こえる拍手の音が雑音にも感じた。

「さあ!最後の一枚です!!特等のイタリア旅行は誰の手に!!」


ざわっと会場がどよめいているのがわかる。
どうやら、須王会長自ら抽選箱からくじを引き当てるらしく、自信に満ちた表情で抽選箱から一枚の白い紙を引き上げた。
「イタリア旅行は……おめでとうございます!!青都物産の 藤森零様!!」

急に俺の周りが、ざわざわと騒がしくなっている。
「藤森…お前だ」
「え?何が?」
「話を聞いていなかったのか?!イタリア旅行お前が当たったんだよ、早くステージに行きなさい。」
専務に肩を叩かれ、俺は初めて我にかえった。
『……ふざけるな…俺はこんなものの為に一年分の寿命を消費した訳じゃない…』

彼は、悔しさを噛み締めながら壇上に上がり、
目録を持つ須王会長の前に立ち、深々と頭を下げた。
その時だった。壇上に並ぶ須王グループの役員達の中に、ジーンの姿が現れた。
彼女は、銀色の弓矢を構えている。
『今頃何をする気だ…須王の会長を狙っているのか?それとも会長の前に立つ俺を狙っているのか?』
ジーンの意図が読めないまま、俺は須王会長から目録を受け取ろうと手を差し伸べた。
その瞬間、ジーンの弓矢を引く音と、それとは明らかに違う爆音と悲鳴が、会場中に響きわたった。

俺の体は、誰かに操られるように須王会長を庇い、ジーンの弓矢と弾丸を左胸に受けていた。

「死ぬ……のか…」
俺は薄れゆく意識の中で、目の前でぶるぶると震えながら銃を構えている男が、取り押さえられている姿が見えた。
……あの男…確か…会場入り口で不審な行動をしていた御崎と言う男だ……

『もう…終わりだ…』

薄れゆく意識の中、俺はジーンを睨みつけながら壇上に崩れ落ちていった。

続く

欲望 其7

人は死ぬ瞬間に、今までの思い出が、映画のフィルムのように頭の中を駆け抜けると
言うが、俺は倒れたその瞬間から閃光を浴びたように目が眩み、頭が真っ白になって
何も覚えてはいなかったのだ。
ただ、ジーンが弓を構え、俺の左胸を狙い撃ちした瞬間のあの冷徹な瞳が、幾度も
フラッシュバックされては消えていく………
『俺は、魔女に騙されて死んだのか……』

俺は、冷たい空間に独りさまよいながら、虚空の空を眺めていた、
俺が今いるこの世界は、現実世界では無い……
その証拠に、目の前にはランプに刻印された女神の使い魔である獣神が二頭、
俺の傍らで、俺の行動を監視するかのように赤い瞳をギラつかせているからだ。
「まるで地獄の番人、ケルベロスに睨まれているような気分だな……」

俺が動き出し、その場から逃げだすような行動を取れば、こいつらは俺の喉元に
その鋭い刃を立て、血をすすり、肉を食いちぎるのだろう。
さっきから喉を鳴らし、喉元を狙いながら俺の周りをグルグル回ってやがる………

「それにしても寒い……指先まで血が流れてない…そんな感触だな……」

「そうじゃのう……お前は今、死に瀕しておるからの……」

聞き覚えのある、あの尊大な話し方……そして土壇場で俺を裏切った女神…

「人間よ…わらわが憎いか…すまぬ…」
「すまないだと!貴様!!」

俺はジーンにくってかかり、頭を垂れているジーンの襟首を掴む、
「最初から騙すつもりだったのか!!」
「……人間よその手を下ろし、わらわの話を聞いてくれるか…」
「今更言い訳か……」
「そう思うならそのように思えばよい……」

「どうせ死ぬのなら、最後に話しぐらいは聞いてやる…だが俺はお前を許さない……」

ジーンは俺の瞳をまっすぐに見据え、言葉を選ぶように話し始めた。

「確かにそなたの願いは叶っておったのだ…抽選会でそなたは特等を引き当て、
須王会長より目録を手にし…
その直後、そなたは、会長を狙う暴漢から身を呈して会長を守るはずだった。」

「確かに俺は、会長を庇い、撃たれた…間違いは無いはずだろ…
でも何故だ、どこに間違いがあると言うのだ…」

ジーンは話を続ける

「わらわの予言では、そなたは御崎の銃弾に倒れるなど、予言はしてはおらなんだ…
考えても見よ…
わらわがそなたに、胸におさめよと伝えた鉄板の厚さでは、銃弾は遮れぬ……
パーティーに現れた御崎は、ナイフでは無く、銃を持っていた………
わらわには、そなたが死に行く様の姿が見えた…… だから…
そなたが使える最後の願いを我が銀の弓に託し、そなたを討った…」
「まてよ!ジーン意味が!意味がわからない!」

ジーンは目を細めた…
「そなたは、ナイフで刺される筈だった…だが予想外の出来事で銃弾に倒れた…
だから、わらわはそなたの願いをリセットし、願いの目的を変えた……」

「それはわかった…けどお前今、最後の願いっていったよな…どういう意味だ!」
ジーンは瞳を曇らせると、俺の胸を押さえた…
「そなたにはもう寿命が無いのだ……」

「俺の寿命が無いだと!!何故それを言ってくれなかったのだ!!」
「わらわが最初に伝えた禁忌の掟を覚えておらぬのか……女神は主の寿命を伝えて
はならぬのだ…」
そんなばかな………俺はどちらにせよ死に逝く運命だったのか……
「何度も伝えようと思うた…」

「死ぬのか…死ぬのか俺……い…いやだ…死にたくない!!」
ジーンは、狂ったように頭を抱え、床に這いつくばっている男の姿を悲しげに 見つめていた。

続く

欲望 其8

俺の寿命がもう尽きようとしている……ジーンから衝撃の事実を聞かされた俺は、
全身の力が抜けたように、暫し呆然としていた。

いきなりの死の宣告に、俺の頭は冷静でいられるわけが無かった…

「ランプを手に入れる前の俺に戻りたい……」

情けない…なんて弱気なんだ…
だがジーンは、俺のその言葉にも首を横に振りながら小さく呟いた……
「時を遡る事は許されぬ……時の神は、それぞれ過去と現実、そして未来を
厳格に守っておる。最初にわらわが申し伝えたように禁忌の掟なのだ……」

ジーンは血のような赤く長い爪を噛みながら、肩を落としうなだれている俺を
見つめていた。

「死しか残されていないのか……夢なら覚めて欲しい……ははっ…情けないな…俺…」

「……夢?!…まて、お前を戻す方法が一つだけあるやもしれぬ」
ジーンは爪を噛むのを止め、俺を見つめた。
「そなたは長い長い夢を見ていた…欲望と言う夢をな……
さあ…願え…全ては夢だった…と」
「願え…って、俺にはもう願いを叶える寿命が残っては無いだろ」
ジーンは眉を下げ、少し曇った表情で微笑んだ。
「最後の望みは、わらわからのプレゼントだ…」

ジーンのその言葉に、今まで大人しくしていた二匹の獣神が立ち上がり、
ジーンの長い絹の衣服をくわえ引き止める仕草を見せるが、
ジーンは二頭の獣神の頭を撫でると、右手に持っていた長い杖で魔法陣を描いた。
「もう時間が無い……早よう…願いを伝えよ!」

俺は魔法陣の真ん中に立つジーンの足元に、ひざまづき呟いた…
「長い長い夢を見ていた…全ては夢の中の世界の話でありますよう…」
「…そなたの願い、聞き受けた…」


願いを叶えた瞬間
ジーンの体はサラサラと砂のように足元から消えて行った……
その時初めて、俺はジーンが禁忌を破った事に気が付いた。
「ジーン!!」

俺はサラサラと砂のように消えてゆくジーンを必死で止めようとするが、
無力な俺には助ける術もなく、砂と化したジーンの側で、生まれて一度も無いくらい泣いた。


…俺は自分の泣き声で目が覚めた。
母親が部屋のドアを慌てて開け、泣いていた俺を凝視している。
「帰省疲れで悪い夢を見たんじゃないの?
それはそうとアナタ、今日骨董市に行くとか言ってなかった?」

「骨董市……」
俺はランプを手に入れる前の日に目覚めたらしい……やはり夢だったのか…
しかし、金色の砂が汗ばんだ右手のひらに、びっしりとついていた。
「ジーン……」

俺は身なりも気にせず、以前ランプを手に入れた古ぼけた神社まで向かった。

鬱蒼と木々が生い茂る神社の参道の奥に、やはりあの時と同じシチュエーションで、
骨董市が開催されていた。
「美人の売り主がどこかに居るはずだ…」

俺は辺りを探してみたが、以前ランプを売ってくれたあの女性の姿は、何処にも無かった…


「やはり夢だったのか……」

あの女性の売り主がいた場所には、胡散臭い老人が、骨董品を並べて座っているだけだ…

「……何か見ていくか?」

「いや…俺はいい………おい!それは?ランプじゃないのか?」

確かにあの時のランプがそこにはあった。
だが色も褪せ、蓋すらもついてない姿で、老人の傍らに置いてあるのだ。

「ああ…これか…これは売り物では無いのじゃよ…ほれ…蓋が無いのでな、
水差し代わりにわしが使っておる……」
「魔法のランプじゃないのか?」

老人は驚いた顔をし、その直後カラカラと笑いだした。
「確かにこのランプは逸話らしきものはあるらしいがの……
昔、このランプが魔法のランプと呼ばれ、持ち主の願いを叶えておった…
だがある日、ランプの住人と呼ばれる女神が、人に情けをかけ禁忌の掟を破り
自ら果てたと………はっはっは…よいお伽話じゃろう……」

俺は老人に頼み込み、その壊れたランプを売って貰った…

変わり果てたランプと、ジーンの想いを俺はこれからも大切にしてゆく……


人は欲望に囚われると、本当に大切な物まで失ってしまう………
それを教えてくれたのはジーンなのだから………

END
 

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